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医師・医療未来学者 奥真也氏に聞く医療の「今」と「これから」

医師・医療未来学者  奥真也氏に聞く医療の「今」と「これから」

アクセスするのは病院からサイトへ

――医療機器が一層進化すると、病院のあり方も一変しそうです。

 現在、病院は物理的に存在しています。病院に「通う」わけですよね。ある意味、当たり前のことだし、医療は病院ができてからずっとそうやって行われてきました。しかし、ICTがさらに発展し、医療機器も一層便利になれば、次第に物理的な存在としての病院は必要性が小さくなっていくでしょう。
 そうした変化は患者さんにとって理想ともいえます。例えば、インフルエンザにかかったかもしれないが、単なる風邪かもしれないときは、できれば病院には行きたくないはずです。インフルエンザにかかっていないのに、病院に行ったがためにうつされてしまうことは頻繁にあるからです。感染症を治すことを優先するのであれば、患者さんを1カ所に集めるべきではありません。しかし、集めなければICTがない頃の病院の実務は成り立たなくなります。医療はこうしたジレンマを昔から抱えてきたのです。それが、技術革新によってようやく解消される兆しが見えてきたのが、今という時代なのです。
 「病院に行こう」から「サイトにアクセスしよう」へ。この先10年くらいのスパンで、オンライン診療が急速に一般化すると思われます。そうなっていくためには、次世代の通信技術である、いわゆる「6G」が実用化されることが必要です。現時点では、「6G」は2030年代に実現すると見込まれています。

――そうした時代において、人間の医師の役割はどう変わっていくのでしょうか。

 AIに任せられる領域はどんどん広がるでしょう。しかし、私はAIがどれほど進化しても、人間の医師にしかできないことは必ずあると確信しています。例えば、患者さんの病状や家庭の事情などを踏まえ、時には診療ガイドラインに記載された標準治療にのっとった上で、それを超えた治療方針を立てて実行することも必要になります。これは患者さんに寄り添うという観点からも、人間にしかできない領域だと思います。
 また、別の例ですが、2024年10月には、代表的な神経難病の一つであるALS(筋萎縮性側索硬化症)の進行を抑制する薬が承認されるという朗報がもたらされました。ALSは全身の筋肉が衰えていく病気で、イギリスの理論物理学者・ホーキング博士が長期にわたって闘病したことで知られています。今回承認された薬は別の病気の薬として長年使われてきたものです。2015年に製薬企業が承認を求めたものの、その時はALSの薬としての承認は見送られてしまったのですが、「絶対に役立つはず」という信念を持った徳島大学や千葉大学の医師らが「医師主導治験」という形で粘り強く治験をやり直し、薬効があることを立証したのです。これもAIなら継続するのは無駄だと、切り捨ててしまったかもしれません。やはり強い意志と研ぎ澄まされた専門性を持つ人間の専門家であるからこそ、やり遂げられたのではないでしょうか。
 他にも、新型コロナウイルス感染症のような人類の脅威となる未知の病気が発生すれば、豊富な経験を持つ医師が先頭に立たなければなりませんし、次世代の医療機器を開発するにも、その領域を究めた医師の専門知識が必要になります。「医工連携」という言葉がありますが、医療DX(Digital Transformation)や医療機器の開発についても、技術者としての造詣も併せ持つ医師の活躍の場は大きく広がっていくことになるでしょう。

AI時代の医師とは? 「人間力」を養おう

――医師になると、一生勉強し続けなければならなくなったり、プライベートな時間がなくなったりすることはあるのでしょうか。

 私が知っている医師のほとんどは、仕事を楽しんでやっていると思います。他の仕事と同様、つらいこともいろいろありますが、全体としては楽しいし、充実感にあふれています。だからこそ、多くの人が医師を続けられるのです。
 その一方で、医師はずっと勉強しなくてはいけないのかと聞かれることがあります。それは医師に対する認識が間違っていると思います。患者さんの医療に責任を持つ意味でも、また、自身の知的関心という意味でも、きちんとした専門家が勉強したくなくなることは起こらないからです。
 しかも、AI時代になって仕事環境が一層良くなれば、かつてなら医師がやらざるを得なかった繰り返し業務や雑用に近いことはAIが代わってくれるので、医師はより専門性が高い仕事に専念できます。研鑽をなおざりにすることなく、知識をアップデートして、進化する医学全体を自分の中に再構築し続けることに時間を有効活用してもらえればよいのです。これからのAI時代にはこうした好循環が生まれることを大いに期待したいですね。

――そうした時代を迎えると、AIによって医師の職業像は大きく変わっていくのか、それともたいして変わらないのか。どちらなのでしょうか。さまざまな職業がICTやAIに置き換わっていく中で、医師も例外ではないと危惧する意見も聞かれます。

 ほんの30年前、電車の中でほとんど全員がそれぞれのスマホを持って操作している状況を誰が想像できたでしょうか。社会はテクノロジーの進化によって、あっという間に様変わりしていきます。医師に限らず、全ての職業は今後、AIとの共存を前提とすることになると思います。しかし、それは何も、仕事がつまらなくなるということとは全然違うのです。どの時代、どの分野でも、人間でなくてはできないことは必ずあるのです。しかし、時代の変化に飲み込まれないようにするのには「人間力」が大切だと思います。

――「人間力」とは難しい言葉ですが、AIに負けない総合力のようなものと考えればいいのでしょうか。また、若い頃には何をやっておけばいいのでしょうか。

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