働き方は千差万別 医師のワーキング白書
厚生労働省の調査によると、わが国の医師は約33万人です。医師国家試験に合格後、臨床研修を終えて「一人前」の医師となるまでは誰もが同じようにステップアップしていきますが、その先の活躍の場は幅広く、自分の「志」や「将来ビジョン」に基づいて、選んだ道を歩んでいくことになります。
どんな場所で、どんな働き方がありますか?
開業医
臨床医は、病気やけがをした人を診察したり、治療したりする医師のことです。そのうちの開業医は、病院や診療所(医院・クリニック)を経営し、自ら診療も行います。勤務医として10年以上のキャリアを積んでから、開業医に転じる場合が多く、親や親戚の後を継ぐケースも多く見られます。利点は、自分の考えに沿った診療ができること、多くの患者が集まれば高い収入が得られることなどです。ただし、経営センスも重要です。会計管理、労務管理、各種の行政手続きなど、診療以外の仕事も多いです。
勤務医
大学病院や一般病院、診療所などで給料を受け取りながら働きます。開業医と違って経営に関わることはなく、医療の現場が主な仕事場となります。厚生労働省の調査によると、診療所(入院ベッド数が19床以下)では勤務医の割合は35%程度ですが、一般病院(同、20床以上)では約98%が勤務医です。安定した収入が得られるものの、当直などで労働時間が長くなりがちな面もあります。その一方で、大きな病院であれば最新医療に触れる機会が多く、自分の目標の変化に合わせて職場を変えられるという利点もあります。
研究医
患者と接することがほとんどないため一般へのなじみは薄いですが、医療の根底を支える重要な役割を担っています。大学や病院、製薬会社などで、難病の治療法や新興感染症の原因・メカニズムを研究し、治療に役立てます。研究医の仕事の基本は実験データの収集と解析です。成果が出るまで地道に実験を繰り返す忍耐強さが求められます。研究成果が出たら、論文にまとめ、国内外の学会で発表します。大学の教授や准教授の立場にある医師は、自分の研究に打ち込みながら、学生への講義、大学病院などでの診療に当たります。
どんな診療科がありますか?
初期臨床研修を終えると、多くの医師は今後自分が進むべき診療科を決めて、後期研修に臨むことになります。診療科は専門化、細分化されており、厚生労働省の調査でも40種類以上に分けられています。代表的な診療科について、仕事の内容や医師の男女比などのデータを紹介しましょう。
なお、診療科を選ぶ際には、自身の興味や関心、職場の雰囲気、収入・待遇、求められるスキルや適性などを考慮する必要があります。例えば、家族の病気をきっかけに医師を志した場合、その際に診てもらった診療科を選択するケースもあります。
近年は、医療関係者の間でもワークライフバランスが重視されるようになってきました。労働時間の長さや緊急対応の頻度は診療科によって差があるため、その選択は働き方や生き方に大きな影響を及ぼすといえます。特に女性医師の場合は、結婚や育児との両立を重視する傾向が顕著になっています。
※データはすべて厚生労働省:2022年「医師・歯科医師・薬剤師統計」より作成したものです。
内科
- 呼吸器内科
- 循環器内科
- 消化器内科
- 腎臓内科
- 脳神経内科
- 糖尿病内科
- 血液内科
- アレルギー科
- リウマチ科
- 感染症内科など
体の内部から治療するのが名前の由来とされています。全身を対象に、問診、視診、触診、検査などを通して診断します。一般的には手術を行わず、薬の投与や生活指導などによって対処します。内科がカバーする範囲は広く、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科など臓器や疾患によって専門が分かれています。原因が分からない体調不良時にはまず内科を受診するケースが多く、人々の生活に密着した診療科ともいえます。さまざまな症状や疾患に対応するため、幅広い知識が求められ、患者が訴える症状から適切な診断を下す判断力や、話にしっかり耳を傾け、信頼関係を築くコミュニケーション力も必要です。開業医を含め、医師数、病院数とも最も多いです。
外科
- 呼吸器外科
- 心臓血管外科
- 乳腺外科
- 気管食道外科
- 消化器外科
- 肛門外科など
主に手術によって病気やけがを治療します。医療の高度化、専門化が進み、呼吸器外科、心臓血管外科、消化器外科など、内科と同様に細かく診療科が分かれています。命に関わるケースでの対応や長時間にわたる手術、複数の医師のチームで行う大掛かりな手術もあります。そのため、瞬時の判断が求められ、責任も重いことから、外科医は精神的にも体力的にもタフさが要求されます。ただ、それだけにやりがいも大きく、著名なドクターも多いです。細かい作業が好きで手先の器用な人に向いているといえますが、正確な技術を身に付けるトレーニングを続ける根気強さも重要です。手術の執刀だけでなく、外来診療や入院患者の診察なども行います。
整形外科
骨や関節などの運動器や脊椎・脊髄に関する変形疾患や骨折、外傷性疾患を診断・治療します。スポーツ障害に対応することもあります。脊髄、骨盤、肩、肘、膝、手足の指など対象は幅広く、患者も全ての年齢層にわたるので患者数、医師数ともに多いです。
精神科・心療内科
精神科では、うつ病、統合失調症、パニック障害、摂食障害など心が原因で生じる疾患に、薬物療法、心理療法、行動療法などで対処します。ストレスなどの心理的な要因で、胃潰瘍や気管支ぜんそくなど身体の症状を伴うものは心療内科の領域です。
小児科
0歳から15歳くらいまでの子どもの病気を総合的に扱います。部位ではなく年齢で科を設けているのは、発達期に応じた治療の専門的知識が必要なためです。予防接種や学校での健康診断なども行います。手術を伴う疾患を対象にした小児外科もあります。
産婦人科
産科は命の誕生に立ち会う診療科で、妊娠中の検診、出産の介助、産後のケアなどを扱います。婦人科は子宮や卵巣など女性生殖器に関する疾患、更年期障害や生理不順など内分泌疾患を扱います。帝王切開や子宮筋腫などの手術も行います。
眼科
眼球、視神経、視機能など視覚に関する疾患を診断し、治療を行います。コンタクトレンズの処方や花粉症への対処など生活に密着した診療のほか、白内障や網膜剥離などの手術もあります。全身疾患に関連する症状にも当たるため、幅広い知識が必要です。
耳鼻咽喉科
中耳炎、めまい(メニエール病など)、難聴などの耳の疾患、アレルギー性鼻炎、副鼻腔炎(ちくのう症など)などの鼻の疾患、咽頭炎、声帯ポリープなどの喉の疾患を診療します。頭・顔・首の手術を行う分野は頭頸部外科と呼ばれます。
皮膚科
全身の皮膚ならびに爪や毛髪まで、器具を使わずに肉眼で確認できる範囲を診察領域とします。アトピー性皮膚炎、水虫など感染症のほか、じんましん、やけど、イボ、かゆみといった日常的な疾患から皮膚がんまで領域は多岐にわたります。
麻酔科
手術時の麻酔の管理のほか、術中のバイタルチェック(呼吸や体温、血圧、脈拍などの確認)を担当し、チーム医療の一員として患者のコンディションを見守ります。さまざまな疾患による痛みを、神経ブロックや薬物療法などにより緩和する治療も行います。
形成外科・美容外科
整形外科が骨や関節など運動器官の機能改善を目的とするのに対し、病気やけがによって生じた身体表面の改善を目的とします。やけどやあざの治療のほか、生まれながらの身体異常の改善、瘦身やしわ・たるみの軽減、骨の変形矯正や乳房再建なども含まれます。
救急科
病気・けがなどによる緊急度の高い重症患者を診療科に関係なく診察し、救命救急処置などの治療を施します。さまざまな症状に対応しなければならないため、幅広い知識と迅速かつ的確な判断力が求められます。災害現場に派遣されることもあります。
放射線科
放射線診断部門と放射線治療部門に分けられます。前者はレントゲンやCT、MRIなどの画像を読み取り、診断結果を担当医に報告します。精密な画像診断が求められます。後者は、がん細胞に放射線を照射するなど、患者の負担が小さい治療法を実施します。
【出典】『LABbook 医学部受験がわかる 2024年 12 月号』東京出版 , 2024 , P.12-15 . 加筆修正して転載